FOLFIRINOXとGEM+nabPTXの効果は?

先日の「かながわオンコロジー道場」で、興味深いやりとりがあったので書き残しておこうと思います。

「かながわオンコロジー道場」とは、神奈川県内の腫瘍内科医やメディカルスタッフ、医学生さんなどが参加して、症例ベースにディスカッション(他流試合)をするという勉強会です。
ご高名な先生の御高説を拝聴する、という会ではなく、ディスカッションメインなので、全員でカンファレンスをしているような雰囲気で勉強になります。

この日は、膵癌の症例でした。
若い、転移性膵癌の患者さんでPSはよく、現在の標準治療であればFOLFIRINOXを選ばせたくなるような症例です。

そこで、プレゼンターの先生が、「ではみなさん、この症例にどの治療を選びますか?」というので、画面にはFOLFIRINOX、GEM+nabPTX、GEM、GEM+Erlotinib、S1などの選択肢が並ぶ。
そこでディスカッションであるが、大勢の医師が
「FOLFIRINOXが最強の治療法だから…」
という論調で話をしていくなかで、ある医師が
「FOLFIRINOXがGEM+nabPTXより上だという証拠はないのでは?」
という発言をされました。

ここで簡単に復習をしておきましょう。
FOLFIRINOXは、GEM単剤に対してOSで11.1か月対6.8か月と延長、ハザードは0.57(95%CI:0.45-0.73)を証明した治療法です(Conroy T, et al. FOLFIRINOX versus gemcitabine for metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med 364(19):1817-25, 2011. )。




それに対してGEM+nabPTXは同じくGEM単剤に対してOSで8.5か月対6.7か月と延長、ハザードは0.72(95%CI:0.62-0.83)を証明した治療法です(Von Hoff DD, et al. Increased survival in pancreatic cancer with nab-paclitaxel plus gemcitabine. N Engl J Med.369(18):1691-703, 2013.)。




GEM単剤については、どちらの比較試験でも6.7~6.8か月と同じ程度なので、多くの医師は、この2つの試験を比べたときに、11.1か月と8.5か月という数字をみて「FOLFIRINOXのほうが効果が高い治療」と言っているわけです。

しかし、確かにそれらしく見えるのですが、本当はセッティングの異なる2つの試験を比べて、「こっちの治療法のほうが強い」と言い切るのは、行儀がよくないことであるのは確かです。実際に、絶対こっちのほうが上だろう、と思って比較試験をしてみて、思いもよらない結果が出たことも、過去の歴史の中では数多くあるからです。head to headでの比較試験をしていない2つの治療法は厳密に比べることはできません。

また、ここで統計の先生からも
「ハザード比がきれいに分かれているわけではなく重なっているので、FOLFIRINOXのほうが勝っているように見えるのは偶然の可能性がゼロとは言えない」
とコメントがありました。つまり、FOLFIRINOXとGEM+nabPTXのハザード比を並べてみると
・0.57(95%CI:0.45-0.73)
・0.72(95%CI:0.62-0.83)
であり、FOLFIRINOXの95%CI上限の「0.73」は、GEM+nabPTXの95%CI下限「0.62」を上回っているので、確率的には、GEM+nabPTXがFOLFIRINOXと同等であるという可能性もゼロではない、ということです。
また、症例数もFOLFIRINOXは342名の試験で、GEM+nabPTXは861名と倍以上であり(それはサンプルサイズの設定の問題もあるのでしょうけれども)、後者のほうがより再現性が高い可能性を指摘していました(95%CIの幅をみてもバラつきが少ない)。

そしてもう1点は、FOLFIRINOXを行う時に、2コース目で好中球減少のため延期や減量せざるを得ないケースが多発するため、最初から減量して行うやり方(modified FOLFIRINOX)が検討されているという話が出たときに、また別の医師から
「full doseでFOLFIRINOXの効果の話をしているときに、最初から減量する、というのであれば元も子もないのでは」
といった指摘が出ました。最初から減量してしまうのであればエビデンスから外れ、full doseのGEM+nabPTXとどちらが効果が高いかなんてことはますます不明になります。

・・・ということで、結局FOLFIRINOXとGEM+nabPTX、どちらがよいレジメンなの?という点ではよくわからなくなってしまいましたが、まあそうは言っても一般的にはFOLFIRINOXのほうが、腫瘍縮小効果を狙いたいとき(奏効率は32%対22%)や、若くて少しでもOS延長効果を狙いたい、というときには選択肢としての重みは強くなる、ということで良いのだと思います。
ただ、無条件にFOLFIRINOXのほうが上だ!と考えるのは、上記のような理由からちょっと考えたほうがよいなと思いました。特に今後、modified FOLFIRINOXがcommunity standardとなっていくのであれば、それとGEM+nabPTXの比較試験をやってもよいのではないかとも思いました(症例集積悪そうですが・・・)

コメント